写真館
キルギスタン kyrgyzstan
トタン屋根の家の庭先に、赤や黄色の花が気分良さそうに咲いていた。じろじろとその花を見ていると、「怪しい外国人が来たぞ」と言った感じで、家のおばちゃんと隣の家のおばちゃんがやって来た。「いえいえ、怪しい者では…」と言う代わりに、パチリと写真を一枚。余計怪しいかな!?
おばちゃんはキルギス語とロシア語、僕は日本語と英語で立ち話。「日本人だ」ということは伝わったようだった。おばちゃんは庭の花を切り取り、大きな花束を作って僕にくれた。僕は「ありがとう! 写真を送るね」と言って別れた。
このあと、昼飯を食べた家のお母さんに花束をあげると、大きな花瓶に入れてすぐに食卓に飾ってくれた。
キルギスの大部分は山と草原と湖の大自然。高い山地の中にあるソンコル湖という湖へ、馬に乗って行ってみた。3泊4日のノロノロ行だ。
出発の日、馬を貸りた麓の村を散歩中に、あちらも馬に乗った少年に出会った。 カメラを向けると、馬も一緒に視線をくれた。
初日に泊めてもらったユルト(=キルギス式移動式住居)の主人は、ずっと酔っ払い気味で顔を赤らめていた。ニット帽がトレードマークだった。
丘の向こうのユルトに住んでいるという親戚のおじさんがやって来たので、並んで一枚撮らせてもらった。後ろの青年は、トレッキングを案内してくれたキルギス人。
親戚のおじさんは、クムス(=馬の乳から作った酒)をひとしきり飲み、ひとしきりおしゃべりをして、ひとしきり主人の子どもを抱っこして、また颯爽と馬にまたがって丘の向こうへ帰って行った。
遊牧民の朝は忙しい。家の周りの掃き掃除に、乳搾りに、水汲みに。男は家畜の放牧に。早朝からやることはたくさん。すべて「生きること」にそのまま結びつくので、たいへんわかりやすい。それに、忙しいけど、慌ただしさは感じなかったなぁ。
遊牧民にとって、乳製品は主要な栄養源。搾りたての牛や羊の乳を、ガーゼでこして手動の分別機にかける。ねっとりとしてやや黄色っぽいクリームが取れる。これをバターの原料にするそうだ。ひと舐めさせてもらったクリームは濃厚で、いかにも栄養満点といった味だった。
水汲みは重要な仕事。あちこちペコペコへこんだ鍋とやかんを持って、お母さんと一緒に小川の水を汲む。
トレッキングの初日に泊めてもらったユルト(=移動式住居)が遠ざかっていく。圧倒されるほど広大な自然の中で、ユルトの影が豆粒のように小さくなっていた。その豆粒の中で、今日もあったかい生活が営まれている。
目的地ソンコル湖のそばのユルトにもお世話になった。到着早々の昼ごはんは、湖で獲れたばかりの魚のフライだった。塩をまぶして素揚げしただけだが、あっさりした白身がすこぶるうまかった。
なーんもなく広い。というのはそれだけですごい。普段は体の奥に封印されている、動物のような力と想像力が、ポーンと解放された気分になる。
夜、圧倒的な静寂に包まれる。「神聖な」ってのは、まずもって静かなことを言うのだなぁ、と思う。
羊の鳴き声。馬が土を蹴る音。水鳥の羽音。風が湖面を揺する音。
贅沢な地球の音に耳を澄ませる。(終)