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アジア​写真日記

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​山奥でサッカーざんまい①

​「発作」で始まるミニゲーム

​はだしの子どもと汗を流す

 よく発作が起きる。
 うっ、胸が苦しい……ではない。発作的に行動してしまうのだ。もう少しよく考えてから動かなきゃなぁ、と思いながらも、今のところ治る兆しはない。まぁ、発作のおかげでおもしろいことも起こるのでよしとしよう(ボロボロな結果に終わることもあるけれど……)。

 タイとの国境に近いカンボジアの山間部。美しい山々に囲まれた、パイリンという小さな町で、また発作が起きた。サッカーがしたくなったのだ。さっそく市場の向かいにあった遊具店で、一番安いゴム製サッカーボールを買った。
 ボールを蹴りながら町を歩いていると、小さな雑貨屋に男の子が2人いるのを見つけた。「サッカーやろうか」と日本語で誘い、三角形を作って蹴り合いを始めた。そこへ、えらくモジモジした青年もやって来たので、近くの広場に移った。そこにはお寺と小学校があった。この「お寺&小学校一体型」の場所は、スリランカやミャンマーでもよく見かけた。


 人ひとり入れるほどの穴や、こぶし大の石がごろごろ転がっているグラウンドで、サッカー再開。ひとり、またひとりと子どもが輪に入ってきたので、2チームに分かれてミニゲームを始めた。ほとんどの子は裸足で駆け回っている。コートの幅など意にも介さず、お寺の隅っこまでボールを追っかけて奪い合う姿は元気いっぱい。
 ひとり、なかなかボールにさわれない子がいた。グラウンドの隅のお寺から音楽と読経の声が聞こえていたので、「あれ何?」とその子に聞くと、「ポクッポクッポクッ」と言って木魚を叩く真似をして笑って見せた。ポクポク少年は、たまに転がってくるボールをおっとりと蹴った。
 いつのまにか、たくさんの生徒が校舎から出てきてゲームを眺めていた。ガンガンと照りつける太陽の下、1時間ほど走り回った。

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山奥でサッカーざんまい②

「お客扱い」しないおばちゃん

垣根の低さにアジアがにじむ

 昼過ぎに解散。さっきの雑貨屋で冷たい水を買い、ポクポク少年やモジモジ青年たちと回し飲み。汗かいた後の冷たい水はうまい!
 ゲームの途中で僕も裸足になったので、気づかないうちに右足の親指の爪を割っていた。それを見つけたモジモジ青年が、雑貨屋のおばちゃんに頼んでモジモジと軟膏を持ってきてくれた。モジモジ青年とは、滞在の間あちこち一緒に遊びに行くことになった。

 翌日も同じ時間に小学校へ行ってみたが、日曜日なので誰もいなかった。昨日の雑貨屋に行くと、豪快な顔のおばちゃんが「ああ、あんた。暑いね。まあ座りな」とぶっきらぼうに言った。日陰に座り、ヤクルトのような甘い飲み物を買って飲んだ。
 沖縄や日本の田舎でもそうだが、アジアの人たちは、急な来客や見知らぬ人の訪問にも、まったく当たり前のように普段通り接する。見知らぬ旅人が来ても「お客さん扱い」ではなく、「あ、そう」という感じだ。冷たいのではない。どんな闖入者も日常のひとつとして受け入れている、ということなんだろう。
 思い起こせば、僕の田舎(広島)もそんな感じだった。遊びたい時は、ひとまず友達の家まで行って「~君、遊ぼー」とやっていたし、「ええ魚があったけえ、持ってきたで」と知り合いが突然やってくることに、何の不思議さもなかった。うちの周りはだいぶ都市化してきたが、祖母が暮らす田舎へ行くと、人同士の生活の垣根がずいぶん低いなぁ、と感じる。
 この旅でベトナム・ホーチミン市に滞在した時、僕はそこに住む日本人の友達・知人や、ベトナム人の知り合いの家を何度も訪れた。ほとんどは約束なしで。「今から行くよー( ^_^)」と事前の携帯メールもなしで。
 まぁ、東京などの都会生活に比べ、圧倒的に時間の余裕があるから許されることだろう。しかし、メールや電話がなかった頃は、どこの国でもみんな「突然現れる」しかなかっただろうなぁ。

 ヤクルトを飲み終わると、おばちゃんの親戚らしい3歳の男の子がやってきた。サッカーボールに興味深々。もちろんサッカー開始。その子がきゃっきゃと言いながらポコンと蹴ると、ボールはコロンコロンと転がった。

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山奥でサッカーざんまい③

​最後のサッカーも泥だらけ

ボールを渡して次の町へ

 その翌日も、しつこく小学校へ。途中、家の前でサンドバッグを蹴っていた見知らぬ兄弟をサッカーに誘った。日本なら誘拐 or 連れまわし容疑? 小学校で5対5のミニゲームを1時間ほど。ポクポク君も来ていたが、ゲームになると尻込みして帰ってしまった。
 昼過ぎに解散。泥だらけ、汗だらけ。宿に帰ってシャワーを浴びた。1日4$だが、こんな田舎でケーブルテレビ付で清潔な、なかなか気持ちのいい宿だった。

 狭い浴室で水シャワーを浴びていると、ピタリと水が出なくなった。安宿ではよくあることだが、よりによって全身泡だらけのこんなときに。あちこちいじってみたが、水は断固として出てこない。タオルを巻いて外に出て、下の階のにぃちゃんを呼んだ。
「水が出ないんだけど」

「うん、出ない」

「いつ出る?」

「うん、出ない」

「きっぱり言うなあ。おれはシャワー浴びたいんだけど」
 気のよさそうなにぃちゃんは、蛇口をひねったり浴室をぐるぐる見回したり奮闘したあと、「あ、タンク掃除してるから5分待って」と言った。なんだよ、はじめからそう言えばいいじゃん。
 30分ほど待った。頭の泡もすっかり蒸発してパリパリライオンヘアになったころ、ちょろちょろとシャワーから水が出始めた。

 その日の夕方、例の雑貨屋に行った。翌朝にはパイリンを発つので、昨日の子どもにサッカーボールをあげようと思ったのだ。
 いつものようにおばちゃんは、ふてぶてしく板の上にあぐらをかいていた。3歳の子もいた。ボールあげるよ、と言うとワサッっと飛びつき、さっそく蹴りはじめた。ポクポク君もいた。どうやらこの奥に家があるようだった。ちょうど最後に会えてよかった。
 ふたりの子どもの、おっとりした玉蹴りをしばらく眺めたあと、淡いオレンジ色の夕焼けに包まれたパイリンの町で、冷たいビールをキュッと飲んだ。(終)

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