写真館
ウイグル Uyghur
中国北西部の新彊ウイグル自治区。その中の西の端っこ、カシュガルという町へ行った。訪れたのは8月だったが、標高1200メートルの高地なので、朝夕はギュッと冷え込んだ。町はずれにある大きな観覧車の窓から一望したカシュガルの町は、土ぼこりに煙り、レンガ色に染まっていた。
カシュガルに住む人の8割近くが、土着のウイグル族をはじめとした少数民族。だが、近ごろは国の政策による漢族の移住が急速に進んでいるそうだ。町を歩くと、昔ながらの街並みと急造の漢族の街並みが、はっきりと分かれていた。
道行く子どもたちが、みんな椅子を抱えて歩いていた。どうやら小学校へは自分の椅子を持参するらしい。青いペンキで塗った立派な椅子や、お風呂場で使う腰掛け椅子を、みんな大事そうに抱えて行く。
ウイグル族が暮らす地区は、路上市でにぎわっていた。果物屋の店番をしながらご飯を食べていた男の子の表情が良かったので、カメラを持って近づくと、食べる手を止めてキリッとこっちを向いた。
スイカを山積みした軽トラックの荷台から、ニコニコこっちを見ている男がいた。「写真を撮らせて」と言うと、少し顔を硬くしたが、すぐにまたニコニコ微笑んだ。
オアシスの町ピチャンはブドウの名産地だ。静かな空気につられて入り込んだ裏路地で、男の子が家の塀づたいに実っているブドウをもいでいた。その様子を写真に撮っていると、男の子はこちらに寄って来てブドウをひと房くれた。
小さな実をひとつ口に含むと、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。名産地ピチャンで、僕が唯一口にしたブドウの味だ。
このあたりでは、ナンをよく食べる。ナン作り職人のことをナーワイと呼ぶそうだ。作りおきのナンはゴムのようにギュっと硬くなり、あごが疲れるほどよく噛まないといけない。
ナンにもたくさん種類があり、釜で焼くギルデ・ナン、中に肉、野菜などを入れて鍋で作るカザン・ナン、炭に埋めて作るコメッチ・ナンなど、それぞれ呼び方があるらしい。
明るく楽しそうにレンガを運ぶ青年は、白いウイグル帽がよく似合っていた。
子どもたちが、道端のあちこちに座り込んだり、ふざけ合ったりしながら家へ帰って行く。かわいらしい服を着た女の子たちが、日陰に入っておしゃべりをしていた。みんなすでに大人っぽい雰囲気を持っているので驚いた。
北京からウイグル自治区のウルムチまで、特急列車で丸2日間。特急は駅をバンバン飛ばして、ハイスピードで走り続ける。それでも2日かかるんだから、中国は広い。地球はでかい。
着いたらそこは、中国とはまったくちがう世界だった。中国国内なのだけどね。
家の前に椅子を出して日なたぼっこ。暖かい陽だまりの中、通りかかった知り合いと世間話。ウイグル帽のおじいちゃんの時間はそんな風にゆっくり過ぎていく。
ある日の午前中。カシュガルの民族楽器屋で楽器を物色していると、おだやかな顔のおじさんを見つけた。
職人街の通りには、民族楽器のお店が何軒かあった。音楽好きの男たちがぽつりぽつりとやって来て、軽くあいさつを交わしたり、桑や杏の木で作った民族楽器を手に、あれこれ談義を始めたりしていた。
ウイグル族は歌と踊りが上手で、ここカシュガルは「舞踏の故郷」とも呼ばれるそうだ。(終)